全員が笑える場所に辿り着けたらいいな 「冴えカノ劇場版」第二回目感想
完全なネタバレ記事です
前回記事:
tripaddict.hatenablog.com
tripaddict.hatenablog.com
制作陣天才か????
- ヒロインたちの成長と覚悟
- 電車や自動車によるメタファー
- やってみないと、分からないよ
- 加藤恵の表情
- 左手の薬指
- 現実妄想青春群像劇
- 冴えカノが『大人に刺さる』理由
- 夢と現実
- 写真
- Cパートラスト
- 総括
1回目の鑑賞からネットで数多の感想を見てきた。それを踏まえた上で2回目の鑑賞の感想を書いていきたい。
見れば見るほど味が出てくる、しかもそれが次元の異なる旨さをぶつけてくる怪物映画、それがfineである。
ヒロインたちの成長と覚悟
霞ヶ丘先輩とエリリが加藤恵のことを応援することを決めたシーンでは、毎回のこと嗚咽を抑えるのに必死だった。
一滴も涙を流さず、エリリに胸を貸した霞ヶ丘先輩の優しさと強さ。詩羽先輩の前ではお構いなく慟哭するエリリからわかる、二人の絶対的になった信頼関係。二人の大きな成長を感じたシーンだった。(事実、2期では詩羽先輩が涙を流すシーンが存在する)
電車や自動車によるメタファー
ベッタベタだけど素晴らしい。
キービジュアル背景、ロケーションの場所から見える2本の車両ですが、
— 亀井幹太 (@kantakamei) 2019年11月20日
昼バージョンは進行方向が逆で、夜バージョンは同じ方向に走っています。
ベタだけど本篇同様、電車に意味を持たせているつもり。キャラクター配置で調整したけど、それでも隠れてもったいないので… #冴えカノ pic.twitter.com/ZYexNhUqcP
監督自身からキービジュアルの演出について触れている。
キャラクターなしバージョン載せてもらえるとは。
— TSW (@takahiro_s_win) 2019年11月20日
参考までに、線路は左から順に山手線外回り、山手線内回り、湘南新宿ライン北行、湘南新宿ライン南行です。
池袋の六ツ又歩道橋から大塚方面を見た風景です。
劇中Cパートにもこの橋が登場する。山手線外回りと湘南新宿ライン北方ゆきが並走する描写で、おら絶頂しだ。
監督が言ってしまうところにガンスリンガーストラトス事件※*1を思い出してしまうが…。
それは置いといて、本来無機物な乗り物に人物たちの心情を乗せて表現する、やはり冴えカノ制作陣の演出は芸術的なものがある。
TVアニメ版のときからその演出手法に注目が集まっていた。
冴えカノはラノベ原作という面もありオタクがハアハア言いながら喜ぶ演出が満載で、映画が一つの読み物としても満足できる。
やってみないと、分からないよ
そういえば冴えカノ劇場版の「やってみないと、わからないよ」のシーンでまわりのオタク絶命してたな
— 森田憲司 (@YHSTVHD) 2019年12月7日
YouTube
おおおおおおおおあああああああああ
映画館で発狂したい気持ちを必死に抑えてきたが、ここはネットだしもう一度叫ばしてもらう。
キタキタキタあざといぞ加藤!いいぞ安芸倫也!いいぞもっといちゃいちゃラブラブラブライブしろ!
加藤恵の表情
感情をあまり表に出さず、台詞も多いとは決して言えない♭ヒロイン。そんな加藤恵という難しい人間を表現する方法は、今作のかならず抑えておくべき見どころであると言える。
刮目すべきは加藤恵の顔である。例えばこのシーン。安芸倫也がサークルをほっぽり投げて大阪へ向かうと伝えたシーン。
ここでは一切加藤恵の顔がわからない。情報として伝わってくるのは小刻みに震える手と、手の甲に落ちる涙。
これはすごい。泣き顔をそのままスクリーンに映すよりも、加藤恵の表情を読み手の想像にすべて委ねられることによって何百倍のインパクトになっている。
彼女の怒りと失望をわれわれは考えずにはいられない。このコンテを誰が書いたんだ!大変すばらしい!!!!
その後のシーン
安芸がマルズとの交渉のためサークル不在の中、決意を新たにした恵。サークルメンバー全員(羽島兄w)で羽島家に集合するも、自然に加藤と倫也の関係について話題になる。
怒りつつも倫也への自分が持つ淡い気持ちを吐露し、思わず思いがあふれる。
(画像がないのがなんとも心苦しいが)
これがすごい
先ほどとはうってかわってコップの下からカメラが加藤恵の顔をしっかりとらえる。こぼれ落ち、コップの底にたまる涙。表情からわかる怒り、嫉妬、悲しみ。手に取るようにわかる倫也に対する彼女の想い。
惚れてまうやろ!
今度は対照的に表情を映すことで、倫也にぶつけたいけどできない気持ち*2が絶妙に表現されている。二人(と一人)のサークルメンバーには見せる自分の気持ち。
(元)仲間を想う気持ちと倫也への恋心、離れてほしくないという気持ちで揺れ動く彼女の心情をこれまでもかと表現している。天才か?
左手の薬指
1回目の時は完全に見逃したが今度こそはしっかり目に焼き付けてきた。覚悟を決めたか安芸倫也!しかし本当に1カットの一瞬のみで、ほとんどのオタクは見逃してるのでは?
現実妄想青春群像劇
お仕事シリーズ、といえばP.A.WORKSである。花咲くいろは、SHIROBAKO、サクラクエスト…
これらのアニメに共通して言えるのは現実の残酷な問題からなるべく目を背け、または美化する物語であることだ。
もっとも、現実をフォーカスしすぎた作品がサクラクエストだ。限界集落の陰鬱で一寸先は闇な現状を忠実に描いてしまったことで、一部を除くオタクをおいていってしまった。そこが敗因となり、地方の行く末を暗示してしまうような円盤の売上だったらしい。全く皮肉である。個人的には面白かったと思うが、また脱線してしまうのでこれ以上はやめておく。
冴えカノをこれらのお仕事シリーズに加えようという記事が一部あるようだが私は賛同できない。まぁそもそも発端が同人活動からであるのに加え、金髪ツンデレ幼馴染r18天才同人漫画家や黒髪ロングお姉さん天才ラノベ作家なんてのは現実には存在し得ない概念である。存在し得ないから憧れるのであり、存在しないから妄想が膨らむのだ。
冴えカノは現実妄想青春群像劇である。
冴えカノが『大人に刺さる』理由
前回の記事ではタイトルの通り、大人に向けた作品であると総評した。
なぜ大人に刺さるのか、それはCパートに答えがある。
夢を捨てきれず、浮浪者のようないでたちの波島伊織。夢を捨て、なれない営業の職につくものの、彼女に見放されてしまう倫也。
それを妄想オチで終わらせたところにすべての味噌が詰まっている。
彼らは我々の憧れだったのだ。平凡とは言えない主人公、安芸倫也が非凡な天才(美少女)たちを巻き込み、ギャルゲー制作をする物語が、こんなバットエンドで終わるべきではない。
「ギャルゲー」に焦点を当てたということでもオタク心をくすぐる。(ゆずソフトが訴えらたように)近年の青春ADV業界に過去の栄華はなく、ただ残滓があるのみとなっている。冴えカノによって、再び『あの頃』の想いが蘇ってきたオタクも多いと思う。
辛い現実は現実と秒速5センチメートルだけで結構、アニメには夢を持たせてほしい。オタクの悲痛な叫びがこの高評価につながっているのだろう。
夢と現実
この映画は「夢」をテーマの一つにしている。先述した詩羽シナリオのように夢を叶えられないゾウではなく、夢を全力で追いかけ、全員が笑える場所に辿り着いたCパートで、オタクはボロボロにされる。
「んなわけあるか!」があるのが冴えカノ劇場版だ。辛い出来事も一定以上あるが、それを凌駕する「夢」があの桜舞う坂道の上にあったのだ。
冴えない彼女の育てかたを見ている間だけは、鬱蒼とした現実を忘れられる。私はそこに取り憑かれた。
写真
時間的に話せるかどうか分かりませんが、本日の丸戸さんとの舞台挨拶の前に……エンディング後、倫也の部屋のタンス上、ラストカットの棚左側に注目してみてください。#冴えカノ
— 亀井幹太 (@kantakamei) 2019年11月29日
おそらく1期#0の温泉旅行で撮影したものだったと思われる。
全員がそろって写る(おそらく)初めての写真が、約10年たっても二人の部屋に置いてあることに感動した。初心忘れるべからずという戒めの意味と、何と言ってもまたあのメンバーでゲームを作るんだという決意の描写。どこまでオタク心をくすぐってくるんだ!!
Cパートラスト
1期からweb予告などで度々登場する中の人(メタ)描写をここで出してくるとは...となかなか不意打ちを食らった。
ラスト、暗転してからの役者さん達のアドリブはそこそこの尺あるので、これも特典で入れてもらうようにお願いしておきます。ホントにその場で缶ビール開けてます。#冴えカノ
— 亀井幹太 (@kantakamei) 2019年11月7日
それは同時に冴えカノという一つのアニメ作品が完全に幕を下ろしたという演出でもある。登場人物と年齢が近いこともあり彼らと成長を重ねたと言ったら過言だが、そういう物語がいざ終わりを迎えると実感が沸かないのが素直な感想だ。
総括
2019年の劇場アニメで最上位の評価を授けたい。ことしはまさに群雄割拠のアニメ映画市場であった。Fate,響け,ヴァイオレット,青ブタなど人気作の映画化が目立つ中で冴えカノは群を抜いた活躍だった。非常にすばらしい出来だった。
昨今のライトノベル産業のなかで最後まで原作に寄り添い、原作とファンが納得するラストを迎えた作品は全くないと言って過言ではない。制作陣にこだわり抜かれ非常に美しい、かつ納得できる終幕を迎えた作品として後世に言い伝えらえるだろう。
続編については終わり方が良かったし、これ以上下手に伸ばす必要は全くないだろう。そういった意味でも冴えカノというコンテンツと別れを告げなければならないという事実を重く受け止めなければならない。以上。
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